東京高等裁判所 昭和56年(ネ)2987号 判決 1982年11月29日
控訴人 中島晃洋
右訴訟代理人弁護士 野邊寛太郎
控訴人 渋澤文
被控訴人 株式会社東京相互銀行
右代表者代表取締役 長谷川丈作
右訴訟代理人弁護士 春田政義
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの連帯負担とする。
理由
一 請求原因事実四は、当事者間に争いがない。
二 右争いのない事実と≪証拠≫を総合すれば、請求原因事実一ないし三及び五を認めることができ、これに反する証拠はない。
三 右によれば、本件各短期賃貸借がないとすると昭和五五年一二月現在における本件土地の価格は二四二七万三〇〇円、本件建物のそれは、二七四万六〇〇〇円であるところ、本件根抵当権の被担保債権の元利合計は同年一一月二六日現在で四二〇三万九〇〇〇円であることが明らかである。
ところで、短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすときとは、短期賃貸借があるために、抵当物件の価額が減少し、抵当権者がこれにより十分な弁済を受けることができなくなることを指すものであり、短期賃貸借がない場合における抵当不動産の価額が、口頭弁論終結時において、抵当権の被担保債権額を下廻つているときも、これに該るものと解するのが相当である。
しかして、右に認定判断したところからすると、本件土地及び建物の本件口頭弁論終結時における価額は、本件根抵当権の被担保債権額ないし極度額四七〇〇万円をかなり下廻るものと推認し得るから、本件各賃貸借は、抵当権者たる被控訴人に損害を及ぼすものというべきである。
四 なお、短期賃貸借の解除請求とこれを前提とするその設定登記の抹消登記手続の請求とが併合審理された場合、前者は後者に論理的に先行するものであるから、後者は前者の確定を条件とするとはいえ、前者を認容すべき場合には、その確定を条件としてなされた後者も当然に認容すべきものであり、本件における被控訴人の抹消登記手続の請求が叙上の趣旨でなされたものであることは弁論の全趣旨により明らかである。これと異なる控訴人中島の主張は、畢竟独自の見解であつて採用のかぎりでない。
五 してみれば、被控訴人の本訴各請求はいずれも理由があり、これを認容した原判決は相当であつて本件控訴(本件各賃貸借の解除請求は、賃貸人と賃借人を相手とすべき必要的共同訴訟であるから、現実に控訴の申立をしなかつた原審被告渋澤文も控訴人となる。)は理由がないからこれを棄却する
(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 吉野衛 山﨑健二)